しみじみしたおいしさを塩梅のいい編集でまとめ上げた『六甲かもめ食堂の野菜が美味しいお弁当』

六甲かもめ食堂の野菜が美味しいお弁当
定価:1,430円
発売日:2019年3月5日
発行・発売:誠文堂新光社
判型・体裁:B5判(25.8 x 18.4 x 1.2cm)、112ページ

とても落ち着いた表紙写真が素敵で、発売当時から注目していました。
が、後回しにしていたらあっという間に1年も経ってしまってやっと購入した本書。

なのに今度はコロナで自粛生活が始まってしまい、お弁当を持参することもなくなった今年の春でしたから、なかなかご紹介できずにいました。

でもね、扉を開いたら、なんで早くもっと早く買わなかったんだろーってなりました。

 

目次

ていねいなだけでない、経験に裏付けされた優しい助言

「食堂」という名の通り、並んでいるおかずたちは、昔ながらの常備菜が中心。
デパ地下のショーケースに並んでいるような、きらびやかな彩りや盛り付けもありません。
巻頭の「はじめに」で、著者ご本人も書いてます。

「かもめ食堂のおそうざいはよそ行きのごはんではないので、わぁ! と歓声があがることはありません…(略)」

ていねいにていねいに作っている、と。

でも、ていねいに作られたご飯なんて、世の中にはあふれています。
なぜこんなに惹かれるのだろうと考えたら、112ページの本書のあちらこちらに散りばめられた著者の経験に基づいた助言がとても役立つのと、言葉遣いが優しいのがほっこりの理由かな、と。

 

たとえばこんな6ページの説明から本書は始まります。

[美味しいお弁当のための7か条]

1.味、食感、調理法が重ならない組み合わせに。

2.野菜の皮むきはまとめて、できる仕込みは前日に。

3〜5.時間が経っても美味しいように。<その1〜その3>

6.素材を活かし、食感にメリハリをつける。

7.まとめて作っておいて、冷凍保存を活用する。(冷凍保存の詳しい表つき)

 

お弁当のページは、というと、4ページまたは6ページの構成。
お弁当名+おかず内容、お弁当の紹介文で1ページ、完成写真で1ページ、おかずの作り方ページで1ページ、そして副菜のアレンジ方法がプラス1ページという丁寧さ。

おかずの作り方は小さいフォントで読みにくい人もいると思いますが、全体に余白を多くとったレイアウトなので、嫌な感じのしない小ささなのです。

メインのおかずのアレンジレシピがある時は、6ページでひとつのお弁当という構成です。
これもなにげに嬉しい見せ方かもしれませんね。

副菜はそのままにメインを入れ替える、メインはそのままに副菜を入れ替えるなど、その時の都合に合わせて参考にすればいいので。

お弁当の本は、あまりごちゃごちゃしたレイアウトではなく、シンプルなほうがいいと私は思っています。
見たまま、作る人の手順のまま、あちこちのページをめくらなくてもバリエーションが見つかること。

本書はそんなところが安心を呼びます。

 

料理本ならではの制作チームの力

さらに、編集者目線で見ていくと…気づくところがいくつも。

まず、平綴じの糊が強固なやつを使っているので、ぱかっと開くことができちゃう造り。
料理本のような実用書ではぜひ強化糊を使いたいところなんですが、コストが心配になるやつです。

でも、台所で使うなら、この配慮は嬉しいですよね。

また本書は、著者の料理の盛り付けやスタイリング、それらを一冊にまとめあげるデザインがとてもいいのです。

お弁当包みのレトロな色合いがお弁当の色合いにマッチしていたり。
素朴な木製盆皿が副菜の小皿を引き立てていたり。
お花見弁当に使われた風呂敷があえての薄紺色だったり。
お花見弁当だからって、桜色だらけにならないスタイリングが逆に新鮮。

さらにたっぷりとられた余白のあるデザインと、素朴な雰囲気をこわさないあしらい、タイトルに使われた手書きフォント。

自然光でトーンを揃えて撮影された写真は、六甲かもめ食堂の店先にあるままの姿を見せていて。

詰め込みすぎず、少なすぎず。
いえ、レシピ数だけで言ったら、139品もあるんですから、十分なボリュームです。

これが塩梅よく配置され、見やすく読みやすく編集されているのです。

すべてに料理本制作のチーム力を感じます。
とてもいいです。

 

ちなみに私がへーってなったのは、巻頭のお弁当作りアドバイスの記述で、お弁当でもお豆腐が使えるようにする工夫。傷みやすいお豆腐を使うなんて無理と思ってたけれども、なるほどなー、と。

これでお弁当おかずのレパートリーが増えました。

 

著者プロフィール

(本書より)

船橋 律子(フナハシ・リツコ)
兵庫県六甲山の麓に佇むやさしい味わいで人気の「かもめ食堂」を営む。7品目の定食や、お惣菜4品から選べるメニューのほか、デザートなどもあるお店。三宮から移転して2年ほど前から六甲でお店を展開。今年でオープンして10年を迎える。

 

制作スタッフ

撮影: 武田俊吾
スタイリング: 上良美紀
デザイン: 伊藤 勝、伊庭貞江(tramworks)
取材・文: 山形恭子
料理協力: 窪田靖子(かもめ食堂)
編集: 鈴木理恵(TRYOUT)

 

目次

かもめ食堂のお弁当のこと

◎お弁当
ドカンと煮込み弁当
肉巻き弁当
チキン南蛮弁当
魚フライ弁当
お花見弁当
炊き込みごはん弁当
意外とカンタンいかめし弁当
てりやき弁当
コロッケ弁当
甘辛ポークソテー丼ぶり弁当
メンチカツ弁当
運動会弁当

◎おそうざい

メインのおかず

チキンカツのブロッコリーソース/鶏の酢豚風/油淋鶏/鶏のカレーチーズから揚げ/鶏のみそカツ/鶏のしそ天/ひじき入り豆腐ハンバーグ/れんこんしそつくね

れんこんのはさみ揚げ/大豆入り豚つくねの甘酢てりやき/ごぼうの揚げ団子

鮭のねぎみそ焼き/さわらとにんじんのマリネ/さわらの幽庵焼き/さばの香味焼き

サブおかず

煮もの

牛肉とかぶの煮物/かぶと油揚げのさっと煮/大根とボイル帆立のさっと煮/高野豆腐の卵とじ/にんじんの梅煮/さつまいもときんかんのはちみつ煮/さつまいものレモン煮/さつまいもと油揚げのみそ煮
サラダ

かぼしゃとカッテージチーズのサラダ/白菜と炒り卵のサラダ/切り干し大根のサラダ/豆とひじきのサラダ/さつまいもとごぼうのサラダ/キャベツとにんじんのカレーサラダ/さつまいものと豆のカレーサラダ
炒めもの

大根塩マーボー/チャプチェ風春雨炒め/スナップえんどうとツナのしょうゆ炒め/ごまみそズッキーニ/カレーうの花/オクラのカレー炒め/えのきとじゃこのさっと炒め/プチトマトのしょうゆ炒め
酢のもの

にんじんとオレンジのマリネ/豆のカレーマリネ/赤たまねぎのマリネ/さつまいもとひじきのごま酢/なす南蛮
和えもの

スナップえんどうのナムル/しらたきのゆかり和え/カリフラワーのマスタード和え
炊き込みごはん

鮭じゃがごはん/里芋とじゃこのごはん/さつまいもとえのきの炊き込みごはん/とうもろこしと桜えびのごはん

季節の野菜覚書